【序】
首を傾ぎ見上げた
分厚い白い綿に灰色のベール
張り裂ける
到底温かそうには見えない
何をしてくれるというのだろう
うつつか虚ろか
静かな水面
質の悪い麻布が幾重にも視界をさえぎる
また首を傾ぐ
白いだけだ
何も起きない
誰も何も変えてくれない
ただこのまぶしいばかりの包囲網から救ってくれない
何故、何故
腐ったような赤色に染まった僕の手を拭いてくれ
足元に知らない人が横たわっている
【1】
また夢を見た。
鏡を見なくてもわかる。顔がむくんでいるし、化粧もそのままだ。昨夜はどうやって自分の部屋に帰ってきたか覚えていない。アルコールを口にするといつもそうだ。たいして面白くもない相手と食事をするのは苦痛だった。飲むしかないじゃん。
私の暮らすこの町は三流の街だ。10年前に両親の元を離れ、ここに来た。たまたま目についた不動産屋に入り、このアパートを紹介してもらった。家賃は7万。ボッタクリのような気もしたが、当時の私は家賃の相場など知らず、ましてや保証人もいない16の小娘だった。どうでもいい、なんとかなるわ。敷金も礼金も不要だった。いちいちカンカンと甲高い音を立てる鉄の階段を昇ってたどり着いたのが24号室。ドアを開けると台所とその奥に和室がひとつあった。どうでもいいから私はここに住むことにした。
私は、この町が嫌いだ。でもこの部屋が好きだからここを離れられない。それともうひとつ理由がある。
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